お盆休み明けなどの長期休暇後にゆううつ感が長引き、「仕事に行きたくない」「誰にも会いたくない」状態になっていませんか? そんなときのNG行動や正しいセルフケア方法を精神科医にうかがいました。
休み明けに「仕事に行きたくない」と思ったら…
今年のお盆休みは最大9連休とあって、長期休暇をとった人も多いのでは? そんな長期休暇後に、「仕事に行きたくない」「会社をやめたい」などとメンタル不調に陥ってしまうことも。
誰もが多かれ少なかれ感じる、そんな思いを強く持ったときに、やってはいけないNG行動があります。
今回は、そのNG行動と正しいセルフケア方法について、これまでに1万人を診察してきた精神科の名医であり、「心の病」への対処法を教える『心の病になった人とその家族が最初に読む本』(アスコム刊)の著者でもある広岡清伸さんに教わります。
「仕事に行きたくない」ときに、やってはいけないNG行動
NG1.夜ふかしの生活を続ける・睡眠不足にする
広岡さん 睡眠が不足すると疲労が残り、蓄積してくるので、心身の不調を引き起こします。また自律神経のコントロールがしにくくなり、朝の目覚め時は不快な気分になりますし、朝に冷静に活動の準備もできなくなり、焦ってしまいます。
食欲がなくなる原因にもなりますし、低血圧の人は、ふらつきなどの症状を起こすことも。また日中の心と脳の活動が不調になり、作業効率が悪くなります。睡眠は最も心身の疲労回復に重要なものなのです。
NG2.朝食を食べないなど、食生活のバランスが悪い
広岡さん 朝食を摂らないと糖分が不足するのでイライラし、集中力も低下します。また神経伝達物質が分泌されにくくなり、精神活動がにぶくなります。
とくに情緒を安定させるセロトニンの材料となるトリプトファンが不足すると、セロトニンが分泌されにくくなるのでメンタル不調になります。またセロトニンが不足すると、それを材料とする睡眠ホルモンのメラトニンが増えないため、睡眠障害を起こします。
1日3食、栄養バランスよく食べ、トリプトファンは豆腐、肉類、バナナなどに多く含まれますので意識して取り入れましょう。
NG3.テレワークで一日中、一人で過ごしがち
広岡さん メンタル不調のときにテレワークなどで外出せず、一人で過ごしている時間が長いと、その間、ネガティブな考えに陥りやすくなります。
さまざまなストレス源にとらわれすぎて、ネガティブな想像をふくらませてしまいます。実際に、自分自身や家族や職場のネガティブな部分にとらわれやすくなり、メンタル不調が悪化することも多いのです。
人と会話できていないと、ポジティブな思考にチェンジする機会を逃してしまいますので、メンタル不調のときはできるだけ外に出たり、人に会ったりしたほうが良いですね。
NG4.仕事をやめることを即断する
広岡さん メンタル不調のときには、会社についてネガティブな考えが強まっており、ネガティブな部分しか見えなくなっています。冷静な判断がむずかしくなったり、仕事が向いていないと思えてきたり、会社の人たちが意地悪に思えてきたりします。
メンタル不調が回復した後、やめないほうが良かったと後悔する人がいます。緩和勤務、転属や休職などの選択肢もあるので退職を即断しないようにしましょう。
長期休暇後のメンタル不調…正しいセルフケア方法は?
ーー長期休暇後にメンタル不調に陥ってしまったら、どうすればいいのでしょうか。正しいメンタルケアの方法を教えてください。
広岡さん メンタル不調のときにはネガティブな思考や想像が強まる傾向があります。それらを平常心でストップすることが重要で、それによって事態を悪化するのを食い止め、軽快に向かわせます。
解決のためには「不条理な人間社会を生き抜いている自分の存在と人生に意味と価値がある」ことを信じ、肯定的体験を積み重ねることが大事で、それによって平常心を取り戻すことができると考えます。
メンタル不調によって生じる生活障害が軽度のときは、外出してポジティブな気分転換をする必要があります。生活障害が深刻な場合には、外出で気分転換がむずかしいので、インドアで睡眠や食事で疲労回復に努めます。回復してきたらアウトドアで気分転換ができるようにします。
ーー周囲に相談するのはよいことですか? 相談するならどんな相手がよいのでしょうか。また相談するコツを教えてください。
広岡さん 孤立するのはよくないので、周囲に相談すべきです。最初に話す相手は、自分の考えを押しつけるのではなくて、あなたの側に立って、あなたの悩みを親身になって冷静に聞いてくれる人がよいですね。例えば仕事先のことで困っている場合には、信頼できる相談相手からの助言を参考にして、上司にお願いを込めた相談するのもよいでしょう。
相談するコツは、なるべく困っていることを正直に話すこと。「これを言ったらまずいな」と考えると、間違った方向にいってしまうからです。
精神科を受診すべき基準は?
ーーどんなときに、精神科を受診すべきでしょうか?
広岡さん 精神科を受診すべき基準は5つです。2週間前以上前から、次の症状が一つ以上ある場合は検討してください。
1.心に何らかの異変がある(多弁、悲観、対人恐怖)
2.行動に異変がある(イライラ、多量飲酒や過度の買い物、ふさぎ込む)
3.自律神経に異変がある(睡眠障害、食欲障害、多彩なカラダの不調、倦怠感)
4.過度に情緒不安定になった(過度に弱気になっている、逆に異様に強気になっている)
5.日常生活や社会生活に支障をきたしている(出社困難、仕事がまったく手に付かない)
広岡さん これらの5つは連動しているので、受診が遅れると2つ、3つと増え、症状がこじれていきます。早期受診が望ましいです。
ーー自分一人ではどうにも解決できないほど行き詰まっているなら、これらを参考に受診を検討してみるのもよさそうです。
長期休暇後にメンタル不調に陥ったときには、これらのアドバイスを参考にして、無理をせず、また悲観せず、一人で抱え込まず、自分にとって最善の選択を取りたいですね。
Information
<教えてくれた人>
広岡 清伸(ひろおか・きよのぶ)さん
精神科専門医、指導医、精神保健指定医。広岡クリニック理事長。患者の目線に立って治療する独自の「肯定的体験療法」が評判を呼ぶ。著書に『心の病になった人とその家族が最初に読む本』(アスコム社)などがある。
<筆者情報>
椎原茜
ライター。記事を通して、読者の方々に役立つ情報を知ってもらい、ハッピーかつ快適な生活を送っていただきたいという思いで執筆中。
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文・椎原茜